FC2ブログ

自縄自縛 (2)喪失

初の創作小説、第2回。
なんと、続いてしまいました。
第1回から読みたい方は、こちらからお願いします。
勢いと辻褄合わせで、何とか書いているような状態です。書いている本人も、どう話が転ぶのか、よく分かっていません。
読みたいように書いている、といったあたりが本当かもしれません。

では、第2回。始まり始まり~。





(2)喪失

どうやら、テーブルに突っ伏したまま寝ていたようだ。
後ろを振り向くと、彼女は洗面所の鏡の前で、髪を直していた。
俺が起きたのに気付くと、彼女は、金を貸してほしい、と言った。
「ごめん、家に帰れないの。電車賃だけでいいから」
とりあえず三千円、渡した。これだけあれば、何とかなるんじゃないかな。
「ありがとう。必ず返しに来るから」
「別にいいよ」
「ふふ。じゃあね、ミツやん」
俺も、じゃあな、と手を振った。
彼女は荷物を抱え、あっという間に玄関から出て行った。
一瞬、もう会えないのではないかという気がした。
追いかけたほうがいいのかな。
でも、追いかける理由がなかった。

そういえば、俺は、彼女の住む場所も知らない。
彼女が何をしているのかも知らない。
そして、まだ、彼女の名前も知らない。
追いかけて訊けばよかった。そう気が付いたのは、彼女が玄関を出て、五分以上経過してからだった。

テーブルの上は、綺麗に片付けられていた。
コップは綺麗に洗って伏せられ、空き缶もきれいに洗われ、流しに並べられていた。
念のため、風呂、トイレもチェックしてみたが、さすがにそこまでは手が付けられていなかった。
冷蔵庫も開けてみた。中身は変わっていないようだ。
少し、ほっとした。
野菜ジュースを取り出し、コップに注ぎ、一気に飲んだ。
朝食、終わり。

歯を磨きながら、洗濯機を回す。土曜日の日課だ。
一週間分の洗濯物を洗濯機に放り込み、スイッチを入れる。
窓を開け、空気を入れ替える。ぎらぎらした夏の太陽。外気は既に熱気に満ちていた。
酒のにおいの残る退廃的な空気を入れ替えると、窓を閉め、エアコンをかけた。
洗濯を終え、外に干す。この天気であれば、午後には乾いているだろう。
ついでに、布団も干すことにした。

洗濯の合間に、米を研いだ。
昼の分と夜の分。
2合も炊けば充分なのだが、一瞬、迷った。
迷った挙句、結局、いつもどおり2合だけ研いだ。
水の量を2合のところに合わせ、炊飯器にセット。洗濯を終えたら、スイッチを入れよう。

洗濯物を干し、炊飯器にスイッチを入れ、ようやく落ち着いた。
インスタントコーヒーを水で溶き、氷をぶち込んだ、大してうまくもないアイスコーヒーを飲んだ。
座布団に座り、ふう、とため息をひとつ。

突然、俺は迷った。
いつもはここで、何をやってたんだっけ?

米が炊けた後にやることは決まっていた。
野菜と肉を切って、卵を溶いて、フライパンを熱して油を注ぎ、卵を入れ、炒め、ご飯を入れ、炒め、野菜を入れ、塩とコショウとガラスープの素で味を決め、醤油を落とし、炒飯を作る。
食べ終わった後は、いつもどおり、本屋に行ったり、家財の買い物をする。
もう、何年も続けている、いつもどおりの生活。
でも、その米が炊けるまでの数十分、何をすればいいのか、俺は突然、分からなくなった。
すうっと、不安が胸に広がった。

米が炊けた。でも、予定通り炒飯を作り始めることが出来なかった。
どうにも、作る気力が湧かなかったのだ。
作ってどうする? 食べるだけ?
とても、つまらないことのように思えた。
床に寝そべり、目を閉じた。

結局、午後2時を回ってようやく、昼食を食べた。
卵かけご飯で済ませた。

この後、買い物に行く予定なのだが、どうにも億劫で仕方がない。
外食で済ませてしまうか、とも思ったが、炊いた米が残っている。
レトルトカレーで済まそうと思い、台所を探したが、カレーはどこにも残っていなかった。
買い物には行かなくちゃいけなさそうだ。

洗濯物と布団を取り込んだ。
熱気を含んだ布団のせいで、部屋の温度が上がった。
財布を取り、ひととおり身なりを確認してから、家を出た。

駅前のスーパーまで歩いた。あっという間に汗が噴き出る。
それにしても、彼女、いったい、どこの誰なんだろうか。
高校時代の記憶を、もういちど探ってみる。
彼女の口からは俺の高校時代のニックネームが出てきた。知り合ったとすれば高校時代だということは間違いないだろう。
さらに、当時はそんなに親しい間柄じゃなかったんだろう、とも見当をつけた。多分、ほとんど会話をしたことがないハズだ。もしよく知っている間柄だったら、彼女の口からは自然と訛りが出てくるハズなのだ。
もっと言えば、彼女のほうが一方的に俺のことを知っているだけ、という可能性もある。
あ、もしかしたら、他校の可能性もあるな。
部活の遠征、大会で、何人かと知り合ったからな。
確か、ミツやん、で通っていたと思う。

部活と言えば、合宿行くたびにカップルが増えていったな。
予想外の二人が、合宿後に突然付き合い始めたりしたものだ。
集団見合いだとか、合同結婚式だとか言って、茶化していたっけ。
そういう俺も、後輩に交際を申し込み、玉砕している。
卒業以来一度も会っていないけれど、あの子、元気かな。

そういえば、学校祭後の打ち上げでも同じようなことがあった。
あのときは、10組以上のカップルが出来上がった。
10組以上のインスタント・カップル。そのほとんどが、卒業までに別れたんじゃなかったけ。
でも、少なくともひと組は、その後も細く長く続き、3年前に結婚した。
旦那のほうは、俺の高校時代の友人で、いまだに付き合いの続いている数少ない人のひとりだ。
たまには電話してやるか。「子供はまだか?」って。
ついでに、彼女のことも聞いてみようと思って、電話をかけようとし、やめた。
何て聞けばいいのだ?
名前も知らない、顔も見覚えのない女がいるんだけど、誰だ? って聞けばいいのか?

彼女の顔と、高校時代の思い出が、どうにもうまく繋がらない。

1週間分の買い物を終え、家に帰った。玄関前に人の気配はなかった。
ポストを開ける。朝刊が入っていた。朝、取り出していなかったことを思い出した。朝、退屈だったのは、これが原因だったのかもしれないな。
新聞を取り出し、玄関の鍵を開け、中に入った。
いつものように、殺風景な部屋があった。

いつまでこういう生活を続けるのだろうか。
週末をひとりで過ごすのは、俺の性分に合っていると思っている。
家に帰ったあとにも煩わしい人間関係が待っているのは、苦痛だった。
高校卒業後、ずっとひとり暮らし。ひとりのほうが自由だし、気楽だ。その考えは変わらない。
ただ、この生活を今後10年、20年と続けるのだろうか。
別にそれならそれでもいいか、と思う。
同時に、そんなことでいいのか? とも思う。
何がどういいのか、悪いのか、よく分からない。ただただ、漠然と、しっくり来ない感覚だけがあった。



夕食は、麻婆豆腐と炒飯を作った。
麻婆豆腐は濃く、辛く。でも、とろみだけは薄めにする。
逆に、炒飯はかなり薄味に、油も少なめで仕上げる。
ラーメンどんぶりに、出来た炒飯を入れ、その上から麻婆豆腐をぶっかける。
見た目は男の料理。味のバランスはかなりシビアで繊細だ。
何より、安上がりでバランスも良く、おまけに後片付けの量が少ないのが、この料理のいいところだ。
スプーンで口の中に流し込む。熱さと辛さが口に広がる。ビールで一気に流し込む。
今、戻ってくれば、少しは分けてやってもいいんだけどな。
玄関をちらりと見る。もちろん、誰もいないし、何も起きない。
鍋に少しだけ残しておいた炒飯と麻婆豆腐を、すべてどんぶりに移し、口の中にかき込んだ。

食べ終わって、ビールをもうひと缶飲んでから、鍋と食器を洗う。
シャワーを浴びる。そういえば、昨日はシャワーを浴びなかったな。
気が付いてしまうと、急に頭が痒くなった気がして、いつもより念入りに頭を洗った。

トランクスとTシャツ姿のまま、パソコンのスイッチを入れた。
検索ワードに高校の名前を入れ、エンターキーを叩いた。
検索結果から、いくつかリンクを辿ってみたけれど、俺が欲しい情報はどこにもなかった。
検索ワードに、卒業年度を追加。一気に件数は絞られた。
但し、リンクを辿っても、大した情報は得られなかった。

キーワードを少しずつ変えながら、何度か検索を繰り返した。
何度かリンクを辿っているうちに、突然、懐かしい画像が画面に出てきた。
それは、一枚の絵だった。
俺が高校時代に書いた、たった一枚の水彩画。
美術部員でもなく、画才も何もないハズの俺が、ふざけ半分で書いた一枚の水彩画。
高二の夏休みに、バトミントン部をさぼり、美術室を三日間借り切り、結果的にかなりのめり込んで書いてしまった絵。
高校のなか、特に教師や美術部員の間では、かなり評判になった絵だ。
その絵がどうして、インターネット上で晒されているのだろう。

原画はどこにあるんだっけ? まるで思い出せない。
大切に保存した記憶は、ない。
頭がくらくらした。
冷蔵庫から新しいビールを取り出し、缶のまま飲んだ。
このページをブックマークし、パソコンの電源を落とした。
立ち上がり、玄関に向かった。
鍵を開け、扉を開いた。
第六感? それともただの偶然?
俺は確信を持って玄関を開け、その確信どおり、彼女がそこにいた。
頭がくらくらした。
彼女は昨晩やってきたのと同じ姿で、そこに立っていた。

続く
関連記事


テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

No title

今回、彼女がだれなのか、何があったのか、、、なにかがわかるのかと思ったら、ますます混乱してきました^^
お米をたく量で一瞬迷ったところには、思わず微笑んでしまいました^m^
続きが、気になります★(*^^)v

あ゛~12時半に家をでないといけないのに。。。

返信>雨乃様

僕も混乱中です。
実は彼女が何者なのか、僕にも分かりません。
彼女の正体については、休み中にいろいろと考えておきます。

何とかなりそうな、ならなさそうな。
やっぱりやーめた、みたいなことにならないように、頑張ります。
ランキング参加中
また、ランキングサイトに参戦することとなりました。
グリグリグリっとクリックお願いします。
にほんブログ村 ライフスタイルブログへ
プロフィール

ストラグラー

Author:ストラグラー
システムエンジニア11年戦士。
世の中の出来事や身のまわりのいろいろなことに、興味の向くままに、てれてれと書き綴ります。
闘って撃沈したり、折り合いをつけたり、妥協したり、たまにはガッツポーズしたり。
お気軽にお楽しみくださいませ。

リンクフリー。お気に召しましたら、ご自由にどうぞ。

カウンター
目次

全ての記事を表示する

カレンダー
07 | 2020/08 | 09
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
カテゴリ
躁 (8)
本 (6)
月別アーカイブ
リンク
RSSリンクの表示
フリーエリア
edita.jp【エディタ】